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東京高等裁判所 昭和45年(ラ)403号 決定 1970年9月25日

抗告人 橋本善次

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は「原決定を取消し、更に相当な裁判を求むる」旨申立てた。

抗告の理由は、別紙「抗告の理由」のとおりである。

よつて判断する。東京地方裁判所昭和四四年(ケ)第六五九号任意競売事件の基本債権にかんし抗告人主張の日その主張のごとき支払猶予の約束が成立し、同人より「支払猶予承諾書」が提出されていることは、一件記録により明らかである。右のごとき約束が成立し、その証書が執行裁判所又は抗告裁判所に提出されたときは「執行を続行すべからざる」事由に該当し、右事件についてなされた競落許可決定は取消されるべきである(民事訴訟法六八一条二項六七二条一号)。

しかし同事件には昭和四五年三月一六日東京地方裁判所昭和四五年(ヌ)第一二〇号強制競売事件が記録添付されたのであり、かかる場合、前記任意競売事件としてなされている執行手続は、潜在的には右強制競売事件のためにもなされているのであり、任意競売事件について前述のごとき「執行を続行すべからざる」事由が生じ裁判所がその旨認めた時には遡つて、右各執行手続は、添付された強制競売事件のためにその効力を生ずることとなると解せられる。したがつて前述の証書が提出され、当裁判所が、任意競売事件につき競落不許事由の生じたと認めた現在、本件競落許可決定は遡つて右強制競売事件のためにその効力を生じているものといわざるを得ない。すると、任意競売事件について抗告人主張のごとき事由があつても、これをもつて本件競落許可決定を取消すべき理由とはなし難い。よつて抗告人の右主張は理由がない。

職権をもつて一件記録を精査するも他に本件手続に原決定を取消すべき違法事由はない。

よつて本件抗告を棄却し主文のとおり決定する。

(裁判官 川添利起 荒木大任 田尾桃二)

(別紙)抗告の理由

一、抗告人(債務者)は、本件不動産競売手続開始前より競売申立人に対する債務を弁済し抵当権を消滅せしめんと欲し金策に奔走して居つたところ、昭和四四年一〇月六日債権者より

昭和三六年七月三日借用元金壱、〇〇〇、〇〇〇円昭和三六年七月三日以降昭和三七年一〇月末日迄の利息金壱九九、参壱五円、昭和三七年一一月一日以降日歩八銭二厘の損害金弐、〇七六、弐四〇円合計金参、弐七五、五五五円につき、昭和四四年一〇月以降毎月末日限り金弐〇、〇〇〇円宛割賦にて弁済する。

二ケ月以上怠つたときは期限の利益を失う。

期限の利益を失うことなく右支払金総額金壱、参〇〇、〇〇〇円に達したときは、その余の債務を免除する。

旨の、分割弁済による支払猶予の承諾と条件付債務一部免除を受けました。

二、抗告人は、右債権者との約旨に従い、昭和四四年一〇月以降その弁済につとめ、昭和四五年五月六日迄毎月金弐〇、〇〇〇円宛計金壱六〇、〇〇〇円を支払つて居り、期限の利益を喪失して居りません。

三、右の理由により債権者の債権は、昭和四四年一〇月六日支払猶予の承諾により弁済期が到来して居りませんので、その物上担保である本件抵当権は、実行できないものでありますから、昭和四五年五月二一日なされた競落許可決定は、無効であります。

四、依つて、該決定を取消し、更に競売手続開始決定を取消し、本件競売申立を却下すべきものと確信致します。

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